2011年4月9日13時55分
東日本大震災の被災者の一時的な避難先として、政府が被災した3県以外でホテルと旅館を13万7千人分、公営住宅4万4千戸を用意したが、ほとんど利用されていないことが朝日新聞の調べでわかった。制度が周知されておらず、故郷に残りたいという被災者の希望も満たせないためだ。一方、福島、宮城両県は民間の賃貸住宅を仮設住宅代わりに借り上げる制度を始めた。
観光庁は3月24日からホテル、旅館の業界団体を通じ、対応できる宿泊施設を募った。災害救助法に基づいて1泊3食付き5千円を国が全額負担し、最短でも1カ月以上は継続して受け入れるというのが条件。8日現在で40都道府県で13万6900人の受け入れが可能という。
観光庁は岩手、宮城、福島の3県を通じ、被災した市町村に受け入れ可能な施設リストを提供しているが、これまでに被災者がこの枠組みを使った例はない。3県は現在、地域のコミュニティーの結びつきをできるだけ壊さないよう、各県内で確保できた宿泊施設への集団移転を優先している。観光庁の担当者は「他県の宿泊施設への希望が出てくるのは当分先になる」とみる。
長野県は全国最多の1万7800人の受け入れを表明している。同県旅館ホテル組合会には、受け入れを表明した施設から「全然反応がない」との問い合わせが寄せられている。スキーシーズンが終わり、震災の影響で予約のキャンセルが相次ぐ旅館には、1人当たり1日5千円が国から支払われる制度は経営の支えになる側面がある。
自治体の公営住宅や国家公務員宿舎などへの入居も進んでいない。国土交通省によると、半年ほど無償提供できる4万4千戸のうち、入居決定戸数は約4千戸(8日現在)。首都圏の都県では倍率が高く抽選になったが、西日本の県では利用が低迷している。
阪神大震災では3万戸の提供に対し、3カ月で1万戸に入居があった。ただ、大半は兵庫、大阪、京都など被災地の近隣で、東日本への避難はまれだった。国交省の幹部は「東北地方は公的住宅の数が圧倒的に少ない。一度、地元を離れると『仮設住宅の抽選日はいつか』『自分の土地はどうなるか』といった情報が入らなくなるという不安もあるのでは」と分析する。
岩手、宮城、福島の3県は仮設住宅6万2千戸の建設を計画し、8月ごろまでの完成を目指す。しかし、津波の被害が大きかった沿岸部では用地の確保が難しく、着工のめどが付いたのは7806戸(8日現在)だけだ。
このため、福島県は民間の賃貸住宅を計5千戸借り上げる。家賃は原則月6万円が条件で、2年間借り上げても150万円前後。1戸当たり400万円近くかかる仮設住宅よりもコストを抑えられる。県の担当者は「仮設住宅のように完成を待たずに済む」と話す。
宮城県も2千戸の借り上げ準備を進めている。ただ、仙台市の空き室が中心で、津波被害が集中する沿岸部では空き室はほとんどないという。岩手県も借り上げを検討したが沿岸部では賃貸住宅が見つからず、見送ったという。
借り上げ住宅は、1カ所でまとまった戸数が確保できないことが多く、仮設住宅と比べると、地域のつながりを維持するのには不向きとの指摘もある。(永田工、歌野清一郎)