11月11日は「介護の日」。65歳以上の高齢者が約3割を占める日本では、介護は決して他人事ではありません。

今回は、朝日新聞ウェブサイト「telling,」編集長・柏木友紀を進行役に、読者の宮部美和さんと穂満正治さん、キユーピーの介護食「やさしい献立」シリーズ開発担当の福士亜矢子さんが、介護における“食べる楽しみ”について考えてみました。

座談会参加メンバー
miyabemiwa
homanshoji
fukushiayako
kashiwagiyuki

【第1部】“食べる楽しみ”はいつまでも大事にしたい

柏木 「telling,」は30代前後の女性読者が多いメディアなのですが、30代になると親の介護が頭をよぎるという声をよく聴きます。宮部さんも30代ですが、介護にどのようなイメージを持っていますか?

宮部 自宅介護を選んだ人が、一人で無理をしすぎてしまうイメージがあります。私の両親は、「もしもの時は施設に預けて」なんて言うのですが、自分に決断できるかわかりません。父も母もまだ元気なので、正直なところ、介護についてしっかり考えたことはなかったです。

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両親とも健在で、介護については「これから知っていきたい」と話す宮部美和さん。

柏木 高齢者を支える現役世代が少なくなる中、介護にどう向き合うのか。若い世代も含め、社会全体で自分ごととして考えていかなければならないとはいえ、なかなか具体的にイメージするのは難しいですよね。穂満さんは、いかがでしょうか。

穂満 私は8年前、父が90歳の時に自宅に引き取って同居を始めました。最期まで介助をほとんど必要としなかったのですが、かたいものはまったく食べられませんでした。ごはんをやわらかく炊いたり、父が食べられそうなおかずを取り分けたりと、妻が配慮してくれていました。

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参加者の穂満正治さん(左)と柏木友紀編集長(右)。

柏木 食べものの飲み込み(嚥下)はスムーズでしたか?

穂満 スープなどの液体は飲み込みにくそうだったので、市販のとろみ剤を使って誤嚥を防いでいましたね。それでも、父は最期まで食べることが非常に好きで、冬はカニ、夏はウナギと、季節のものを少しずつ食べるのを楽しんでいました。ぶどうなんて、特に喜んで食べていた記憶があります。

柏木 いくつになっても食べる楽しみがあるのはいいですよね。福士さんは、キユーピーの介護食「やさしい献立」シリーズの開発に長年携わっているとのことですが、介護における食事の重要性について、どのように考えていますか?

福士 口から食べることは体の機能を維持することにもつながりますし、食事は生きる上で大きな楽しみの一つですよね。私たちも、かむ力や飲み込む力に合わせて選べるよう、食べやすさを意識した商品を開発してきました。

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「私にとっても、食事は生きていく上での楽しみの一つです」と笑顔で話す、福士亜矢子さん(左)。

穂満 父の介護はしていたものの、市販の介護食があることを今日まで知りませんでした。

福士 介護は長く続くことですし、中でも食事は毎日のことですから、メニューを考えるのも一苦労ですよね。そんなとき、食卓に一品でも市販の介護食を取り入れることで、負担も軽減できるのではないでしょうか。介護をする方にも、介護を受ける方にも、選択肢の一つとして市販の介護食の存在を知ってもらえたら嬉しいです。

【第2部】「やさしい献立」のおいしさ、深い味わいに驚き

ここからは、「やさしい献立」シリーズの開発に携わるキユーピーのコーポレートシェフの原進さんも加わり、宮部さんと穂満さんにキユーピーの介護食「やさしい献立」を試食していただきました。

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「“食べやすさ”にも注目して、まずは食べてみてください」と試食をすすめるコーポレートシェフの原進さん(右)。

「やさしい献立」は、食べる人のかむ力や飲み込む力に合わせて選べるよう、「容易にかめる」「歯ぐきでつぶせる」「舌でつぶせる」「かまなくてよい」の4段階に区分した商品を展開しています。

この日試食していただいたのは、「鶏と野菜のシチュー」「肉じゃが」「たまごと野菜の雑炊」「なめらか野菜 コーン」の4品。

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「鶏と野菜のシチュー」(区分:容易にかめる)を口にした宮部さんは驚いた表情を浮かべました。「すごくおいしいです! 自分用に家に置いておきたいくらい」。穂満さんも「鶏肉にほどよいかみごたえがあっていいですね」とスプーンが進みます。

「塩味が強いわけではないのに、味がしっかり感じられるのはなぜでしょうか」。疑問を口にした穂満さんに、原さんは「うまみがあるから、ですね。『やさしい献立』シリーズはどの商品も100g当たりの塩分を1g以下に抑えて作っているので、うまみでおいしさを感じてもらえるように味を整えています」と解説しました。

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2品目は、「肉じゃが」(区分:歯ぐきでつぶせる)。食べる前から、かつお節だしの上品な香りがふわりと漂います。

「すごくいい香りですね」と、宮部さん。穂満さんもうなずきます。原さんによると、「料理は五感で味わうものですから、おいしいと感じていただくには匂いも大事」なのだとか。開発にあたり、風味が飛びやすいかつお節の香りをどう残すかに苦心したと振り返ります。

試食をした穂満さんは「先ほどのシチューに比べると牛肉がだいぶやわらかくて飲み込みやすいですね」と、感想を口にします。牛肉は、かたいものが苦手な人でも食べやすいようにと、野菜と一緒に煮る前に特別な下準備をしているそうです。

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「自宅でここまでお肉をやわらかくしようと思ったら、圧力鍋が必要だし、時間もかかりますよね……」と感心する宮部さん。

3品目は、主食系の「たまごと野菜の雑炊」(区分:舌でつぶせる)。これも和風の出汁が効いた一品です。

「おいしい! 介護食って薄味の印象があったんですけど、全然そんなことないんですね」と、宮部さん。穂満さんは、「トロッとしてるけど、粘りは出てない。米の粒感も感じます」と、口に運んでいました。

原さん曰く、主食だからこそ毎日でも食べ飽きないような味を目指したとのこと。常温でもおいしく食べられるため、夏場の食欲がない時期にもオススメだそうです。

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最後は、「なめらか野菜 コーン」(区分:かまなくてよい)です。宮部さんが「素材の味がしっかりしていて、食べごたえがありますね」と話すと、福士さんは「牛乳を加えて、スープにしてもおいしいんですよ」と、アレンジの仕方を教えてくれました。

「やさしい献立」に込められた想い
“おいしい”の記憶に触れられる味を目指して

1998年に、キユーピーが日本で初めて市販の介護食を発売し、「やさしい献立」シリーズは今年で24年になります。そもそも、どうしてキユーピーは市販の介護食を開発することにしたのでしょうか。

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「きっかけは、キユーピーのベビーフードを介護食として利用しているという声を聴いたことでした」と、福士さん。そこから、キユーピーの“おいしいものを作る技術”と“やわらかいものを作る技術”を使って、ご高齢の方に満足してもらえるような介護食の開発が始まりました。栄養士や専門家、介護施設に入居している方に話を聴きつつ、試作を重ねたといいます。

開発に際し、最も重視したのは“おいしさ”。おいしいものを食べて元気になってもらいたい。これが「やさしい献立」のコンセプトです。

“おいしさ”を市販の介護食で追求するのには、苦労もあると原さんは話します。「おいしさって、個人の記憶と結びついているものなんですよね。例えば、先ほど肉じゃがを試食していただきましたが、家庭によって味つけは異なります。食べ慣れた味、懐かしい味をおいしく感じるため、どうしたら記憶に溶け込めるかを考えながら、いつも開発をしています」

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ほかにも、雑炊の米の粒感をいかに残すかに頭を悩ませたり、香りが飛びやすい和食系メニューの味つけに試行錯誤を繰り返したり……。おいしさの追求に終わりはありませんが、時折届く「『やさしい献立』のおかげで食べられるようになって嬉しい」、「入院して食事ができなくなっていたけれど、口から食べられるようになったことで食欲が復活して元気になった」といった声は、福士さんと原さんにとって大きな励みになっているそうです。 

福士さんは、「三食のうち一食だけとか、主食だけ取り入れてみるとか、介護をする方にも介護を受ける方にも喜んでもらえたら嬉しいですね」と語ります。

二人の話を聴いた宮部さんは、「『やさしい献立』は介護をする人の気持ちまで考えて作られているんですね」と感心しきり。穂満さんは、「介護食の開発にこんなに手がかかっていることに驚きました」と、この日の体験を振り返りました。

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介護にかかわるみなさまの“やさしい”存在に
「キユーピー やさしい献立」

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「やさしい献立」シリーズのラインアップは全54品。「容易にかめる」(6品)、「歯ぐきでつぶせる」(10品)、「舌でつぶせる」(21品)、「かまなくてよい」(14品)、とろみ調整用食品(3品)を展開しています。

介護食としてはもちろん、体調がすぐれないときや災害時の備蓄食など、幅広く使える商品です。