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鎮魂・再起…思い込め 大漁旗、がれきにたなびく 三陸

2011年4月6日10時4分

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写真:泥を流した大漁旗を広げる伊藤長栄さん(左)ら=3日、宮城県塩釜市、乗京写す拡大泥を流した大漁旗を広げる伊藤長栄さん(左)ら=3日、宮城県塩釜市、乗京写す

写真:流木につながれた大漁旗=3日、宮城県気仙沼市本吉町大谷、上田幸一撮影拡大流木につながれた大漁旗=3日、宮城県気仙沼市本吉町大谷、上田幸一撮影

写真:被災地にはためく大漁旗。三浦幸哉さん(52)が、がれきの中から見つけ出して押し流された自宅(右奥)があった場所に立てた。「写真は全部流されたから、見つかった大漁旗を見て思い出すしかないのさ」と話した=2日、宮城県南三陸町歌津、橋本弦撮影拡大被災地にはためく大漁旗。三浦幸哉さん(52)が、がれきの中から見つけ出して押し流された自宅(右奥)があった場所に立てた。「写真は全部流されたから、見つかった大漁旗を見て思い出すしかないのさ」と話した=2日、宮城県南三陸町歌津、橋本弦撮影

 三陸海岸に点々と連なる漁村や漁港のがれきの上に、いくつもの色鮮やかな大漁旗がはためいている。一つ、また一つと増えていく旗は、東日本大震災の津波で命を奪われた多くの漁師仲間やその家族らへの鎮魂、そして再起への思いが込められている。

 漁師250世帯のうち8割が家を失った宮城県気仙沼市の「大谷本吉地区」。震災3日目、消波ブロックや車が転がるがれきの中で、近くの大越巌(いわお)さん(44)は深紅の大漁旗を見つけた。

 「大漁 大谷定置漁場」。旗は年10億円超を水揚げする漁協の栄光の証しで、集落に豊漁を知らせる港のシンボルだった。「よく残っていたな」。みんなに気づいてもらおうと、辺りで一番大きな流木を選んでくくり付けた。

 それから1週間後。高台に逃げて無事だった漁協支所長の小野寺俊昭さん(53)が旗に気づいた。駆け寄って手に取ると、急に寂しさがこみ上げてきた。「あのにぎわいが、いつか戻るのだろうか」。しばらく立ち尽くした。

 港はほとんどが崩れ、漁船800隻のうち使えそうなのは23隻。漁師と家族の60人が戻らない。ワカメ養殖に夢中だった先輩トシミツさん、浜のまとめ役だったイシダさん。働き盛りの地域の担い手を失った。

 小野寺さんは「大漁旗に心躍らせる港を、もう一度つくりたい」。

     ◇

 壊滅的な被害を受けた同県南三陸町歌津の館浜。地震から2週間が過ぎたころ、漁師の三浦幸哉さん(52)は2本の旗を自宅跡に掲げた。町一番の船に贈られる大漁旗は、金色の縁取りに紫が映える一家の誇り。愛船「龍王丸」の文字が躍るのは、いとこからの進水祝いだ。

 三浦さんは津波直前、長男龍徳さん(20)と船に飛び乗った。「津波が来たら沖に出ろ」。代々の教えに従い、丸2日、停泊して生き延びた。だが、帰った村に家はなかった。頼みの魚市場や港も消えた。腕を競い合った漁師の多くが、見つからないままだ。

 いま三浦さんは、避難所から浜に通う。少し高いところに住まいを構えようと、龍徳さんと一緒にがれきを片付け始めた。

 三浦さんは沖の龍王丸を見つめて言った。「漁師はカモメと同じだでば。海に出ないと駄目なんだでば」。犠牲になった仲間の分も漁で取り返すつもりだ。

     ◇

 同県中部沿岸の塩釜市。1965年から遊漁船を営んできた「えびす屋釣具店」では、伊藤長栄さん(79)が軒先に色とりどりの大漁旗を広げていた。戦前のものから約50枚。船底いっぱいに魚を積んだ時は、旗を掲げ、「『ここにあり』って、胸張って港に入ったもんだ」。

 港が復旧したらすぐに船を出せるよう、1階が浸水した店の修理を急ぐ。

     ◇

 「この旗を飾る予定だった船も、きっと流されてしまった」。岩手県に接する気仙沼市の染めもの職人菊田栄穂さん(54)は、泥がこびりついた作りかけの旗を手に声を落とした。

 沿岸の大漁旗の多くは代々継ぐ工場が手がけた。150年続く老舗で菊田さんは6代目。黄色や赤で景気よく飾った旗や、験を担いで「黒字」にこだわった旗など、年500枚以上を請け負ってきた。

 津波は海辺から1キロ以上離れた工場にも押し寄せた。染料や道具は流失。壁や柱が抜け、時計は午後3時39分で止まっている。

 工場再開の見通しは立たないが、菊田さんは「注文が入る日を、ゆっくり待ちたい」と言う。工場の奥に1枚だけ残った旗は、復興第1号にするつもりだ。(乗京真知)

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