2011年4月5日
読者のみなさん、ご無沙汰しています。昨年秋から私事にいろいろと追われ、更新をさぼり倒してしまい、申し訳ない……。
実は、今回の更新を最後に「ノムリエ日記」を閉じようと思っている。もう私が伝えたいことはだいたい書いてしまったし、それに今は皆さん、酔っぱらいのお気楽日記を読むどころではないだろうと思う。東日本大震災、加えて福島原発事故という日本を揺るがす大事件は、まだ収束をみていないのだから。
東京も停電や交通の混乱はあるけれども、とりあえずの落ち着きを取り戻した。しかしいま一番気になるのは、原発事故に端を発した放射能問題に、人々がなにやら過剰な反応を起こしていることだ。たとえばまったく問題がない福島県や茨城県の野菜や果物が妙に敬遠されていたり、ありえない安さで売られていたり……。冷静になればおかしなことだとわかるはずだが、頭に血がのぼってしまっている人が多いのだろうか。
こんな状況では、当地のワイナリーがちょっと心配である。原発事故の影響だけでなく、停電や交通の滞りも影響して、生産や流通が不安定になってはいないだろうか。もしかしたら元気をなくしているかもしれない東北や北関東のワイナリーを、いちワイン愛好家として、全力で応援したい気持ちだ。
そういう意味で、私が今改めて注目しているワイナリーは、たとえば栃木県の足利市にある「ココ・ファーム・ワイナリー」。ここは野生酵母を用い、清澄(せいちょう)や濾過(ろか)などを極力抑えた自然派のワインを造っている。山の斜面を利用して造られたワイナリー所有の畑は、1950年代の開墾以来、一度も除草剤が蒔かれたことがないという。畑の平均斜度は38度と険しく、陽当たりや水はけがよいので葡萄にとっては好都合だが、耕運機やトラクターが入れない。だからここでは、創業以来ずっと機械の手をかりず、人力だけで葡萄畑を手入れしてきたのだそうだ。急斜面での過酷な葡萄造りの作業は、知的ハンディキャップのある「こころみ学園」の生徒たちがその多くを担っている。「葡萄の声をききながらワインを造る」をモットーとするこのワイナリーは、自然と人間の気配をじわりと感じる、優しい味のワインを造っている。
今回の地震で、岩手県は海岸部が大津波に襲われて壊滅的な被害を受けた。内陸部も、津波こそ逃れたが停電や断水が起こり、多くの人が寒さと恐怖に苦しんだそうである。その岩手県内陸部、花巻市にある大迫(おおはさま)町の自然派ワイナリー「エーデルワイン」も、東北で注目の生産者だ。このワイナリーでは、なんと葡萄栽培者全員がエコファーマーの認定(土づくりと化学肥料・農薬の低減を一体的に行う農業者の認定制度)を受けており、ワインの本場ヨーロッパへの研修なども行っている。ワイン造りでは、100%岩手県産の葡萄で造ることにこだわっており、フラッグシップは大迫町近隣にある日本百名山のひとつ早池峰(はやちね)山麓の畑で育ったリースリング・リオン種のワイン「五月長根葡萄園」シリーズ。このシリーズは国産ワインコンクールで8年連続入賞、国際ワインコンクール「AWC」でも3年連続銀賞を授賞しており、内外で評価が高い。
そして今、私のセラーには、ココ・ファーム・ワイナリーの人気赤ワイン「農民ロッソ」と、エーデルワインの「五月長根葡萄園 2009」と「特別醸造ハヤチネゼーレ メルロー樽熟成2004」が眠っている。ラベルデザインからして、どれも美味そうだ。この週末はご贔屓の「東日本ワイン」をワイン仲間でそれぞれ持ち寄り、被災地にエールを送るワイン会を開こうと思っている。
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※長い間、ご愛読ありがとうございました。これからも漫画「神の雫」の応援をよろしくお願いします。
■今回のコラムに登場したワイン関連商品
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