2011年3月29日13時8分
震災後、避難所で生活する人たちのために風呂を貸す「貸湯運動」が仙台市周辺で広がりつつある。冷え込みが続き、満足に体を洗うこともできない中、くつろぎのひとときを過ごしてもらおうと、地域住民らが手を取り合っている。
「地獄に仏ですよ。本当にありがたい」。仙台市宮城野区のマンションの一室で、同区の主婦足立アヤ子さん(77)はほてったほおを緩めた。震災で避難所に身を寄せて以来、約2週間ぶりの湯船だった。家主の佐藤桂子さん(53)は「自分にできる支援を探していた。喜んでもらえてうれしい」と笑った。
2人をつないだのは、同区の若林隆之さん(30)と妻の一恵さん(29)が作った「お風呂・シャワーを貸して頂けるご家庭を探しています」というチラシだった。目にした佐藤さんが若林さんに連絡。足立さんを紹介された。
旅行会社に勤めていた若林さんは、起業するために会社を辞め、地震が起きた11日は夫婦で海外旅行中だった。ブラジルのテレビで流れた、波にのまれる故郷の映像。1年半の予定だった世界旅行を切り上げ、日本に飛んだ。被災者のために何ができるか。アマゾンで野宿が続いた時の風呂のない生活を思い出した。「避難所の人たちが少しでも気持ちよくなれたらどれだけいいだろう」
仙台市周辺は地震で都市ガスの供給がストップ。19日に宮城に戻ると、ツイッターやブログで風呂を貸してくれる人を募るとともに、チラシ約2500枚をプロパンガスや電化住宅と思われる家庭のポストに配った。協力の申し出はすぐにあり、20日から被災者を協力者の家に送迎した。数日で10人が約100人の被災者に風呂を貸してくれた。電化住宅に住む自身も被災者を招く。
仙台市の南にある宮城県名取市閖上(ゆりあげ)地区でも、住民が協力者を募って被災者に風呂を提供したり、大きな浴場を持つ施設が浴場を開放したりと貸湯運動は広まりつつある。
若林さんは今、人数の多い避難所に仮設風呂を作る計画を進めている。鉄パイプで作った枠にブルーシートを張った風呂などを模索中だ。
「しばらくはこの活動に全力を尽くします」。若林さんは笑顔で話した。(橋本佳奈)