2011年3月29日8時32分
福島県で、さまざまな専門を持つ医師がチームを組んで避難所を訪れる取り組みが始まった。避難所生活が長引く人たちに複数の専門的な視点から診察する「動く総合病院」。初日の28日は医師ら約30人が3チームに分かれ、いわき市内の避難所を巡った。
県立医科大が地域の医師会と協力。内科を筆頭に小児科、心臓血管外科、眼科などの医師や理学療法士、感染制御の専門家らがチームを組むことで高度な専門医療を実現し、被災者の健康を守ろうという試みだ。
この日、3チームは津波の被害が大きかった同市の小名浜地区など7カ所を訪問。公民館や集会所の部屋で横になったり座りこんだりしている避難住民のそばに座り、かわるがわる診察した。
うち一つの避難所では、左半身に麻痺(まひ)が残る男性(66)に、看護師がまず血圧を測定。次に内科医が体調を尋ねた。「脳梗塞(こうそく)の既往症がある」と知るや、今度は心臓血管外科の医師が、携帯型の超音波検査機をふくらはぎなどにあてて測定。「血栓症のリスクがある」と診断した。最後に精神科の医師が隣に座り、「夜眠れるかどうか」などを丁寧に聞き取った。
診療を受ける人はほとんど動かない。医師の側で次々と人が入れかわり、居ながらにして健康診断を受けているような形に。投薬もそれぞれの医師が行った。
顔面神経麻痺で脳梗塞の疑いがあるとされた80代の男性は、最終判定のトリアージで「緊急に病院での検査の必要がある」と、最も緊急度の高い赤色の紙判定。医師が施設に話し、救急車で病院に運ばれた。
薬は同市の薬剤師会が愛知県医師会から無償で届けられた計約130種の薬を提供し、協力した。
今週中は連日3チームで、いわき市内の避難所をそれぞれ1日2、3カ所ずつ回る計画だ。取り組みを統括する県立医科大の細矢光亮・小児科学講座主任教授は「被災した方々にどういうニーズがあるのかをとらえて、早めに適切な対応をしたい。今後、全県に活動を広げたい」と話している。(斎藤智子)