2011年3月25日8時55分
■冷温停止へ注水継続
電源復旧作業を続けている福島第一原発では24日、午前中に1号機の中央制御室で照明がつき、5号機ではポンプの交換が終わって夕方には原子炉の冷却が始まった。徐々に管理体制を取り戻しつつあるが、それでも1〜3号機の原子炉は、冷却水の温度が100度を下回る冷温停止になるまで、早くても1カ月はかかりそうだ。複数の東電関係者らが朝日新聞の取材にそんな見方を示した。
冷温停止には、炉内に水を循環させるポンプと、その熱を海水で冷やすポンプの2系統が動く必要がある。だが、1、3号機のポンプは壊れている可能性が高い。このため冷却水を循環させられず、仮設ポンプでの注水が数カ月続く可能性がある。この間、放射性物質は出続けることになる。
関係者によると、ポンプは大型なほど精密な制御が求められる上、ポンプそのものも同時に冷やせなければならない。炉心への配管には多くの弁もある。センサーの作動で炉内の様子がわかっても、「実際に冷却系を正常に動かすのは、注水より格段に難しい」と指摘する。
そもそも、ポンプが正常かどうかを確かめる作業自体が難航している。23日には2号機で高い放射線があり、作業が中断。24日は3号機で作業員2人が被曝(ひばく)が原因で病院に運ばれた。
さらに、1、3号機は水素爆発で建屋が壊れており、ポンプが大きく壊れていれば交換するしかない。代替ポンプがあっても、高い放射線量の下での設置作業は難航が予想される。
米ペンシルベニア州で1979年に発生したスリーマイル島原発事故では、事故発生から冷温停止まで約3週間かかった。福島の1〜4号機は津波や水素爆発のダメージが大きく、京都大原子炉実験所の小出裕章助教(原子核工学)は「状況ははるかに厳しい。1カ月で冷温停止すればいい方だ」と指摘する。
原子炉の核燃料は、運転時の余熱ではなく、核分裂で不安定になった元素がさらに別の元素に変わる際に出る崩壊熱を出し続けている。小出助教の計算では、核燃料が持っている熱は運転時に比べればごくわずかだが、それでも2、3号機にある燃料はまだ約6千キロワットのエネルギーを持っているとみられる。そのエネルギーは半年後でも半分、1年たっても3分の1の力を持ち続けているという。
小出助教は「冷温停止には両系統のポンプを動かして炉心の熱を海に捨てるしかないが、放射線量が多い環境下での作業は時間がかかるだろう」と話した。
■1号機制御 一進一退
東電や経済産業省原子力安全・保安院によれば、1号機の原子炉が一時、不安定な状況に陥った。24日も炉の温度や圧力をコントロールする作業が続いた。うまくいかなければ、放射能をおびた蒸気を外に放出し、原子炉を守る手段がとられることになる。
1号機では24日午前、使用済み核燃料プールからの湯気らしき白煙が確認された。使用済み燃料が持つ崩壊熱を冷やすことが急務だが、原子炉にある核燃料は、さらに問題だ。
原子炉に海水を注入中だが、22日ごろから一時的に設計上の最高温度より100度高い約400度まで上昇。設計値を超えたらすぐ壊れるわけではないが、念のため23日未明に注水量を増やした。
24日午後に約218度まで温度は下がったが、逆に格納容器の圧力は高くなった。注水した海水が蒸気になって圧力容器内の圧力が上昇し、外側の格納容器に蒸気が出たとみられる。核燃料を冷やすことを優先するか、圧力を下げるのを重視するか、バランスが難しい作業が続いている。
最悪の場合、格納容器が蒸気の圧力で壊れ、放射性物質が大量に放出される。そうなるのを防ぐため、東電は蒸気を外部に放出して圧力を下げる「ベント(排気)」という手段も検討している。
蒸気には放射性物質が含まれるため、なるべくなら避けたい手段だ。しかし、これまでにも原子炉の格納容器の圧力が上がり、排気が行われた。保安院によれば1号機では12日に1回、2号機で13日に1回、3号機で12、13、14日に計3回行われている。
ただし、これまで行われた排気は、環境への影響が比較的少ないとされる方法だ。蒸気を圧力容器につながる圧力抑制室に送り、中にある水をくぐらせてから放出する。
水をくぐらせると、蒸気中の放射性ヨウ素の量は約100分の1に減ると考えられるという。キセノン、クリプトンといった放射性の希ガスは減らないが、希ガスは比較的人体への影響が少ない。
しかし、これでもうまく圧力をさげられない場合、水をくぐらせずに放出する排気(ドライベント)に移る。これまで以上に外に放射性物質が出ることになる。
2号機では15日にこの操作をしたが、実際に蒸気が放出されたかは不明という。2号機では15日に格納容器の一部が壊れたおそれがあり、そこから水をくぐらないまま蒸気が排気された可能性もある。
こうした排気は付近の放射線量が上がり、作業員が屋内退避するなど原発の復旧作業に影響する可能性がある。また、高さ120メートルの排気筒から蒸気が放出されるため、風向きにも注意が必要になる。東電は、可能な限り事前に公表するとしている。
保安院の西山英彦審議官は24日、1号機での直接放出についてこう話した。「圧力、温度、水の注入具合、原子炉の状況などを見ながら総合的に判断する。最終的には統合本部長、総理が許可する」