2011年3月17日11時47分
《解説》円高が一時1ドル=76円台まで進み、約16年ぶりに戦後最高値を更新したのは、東日本大震災や福島第一原子力発電所の事故で日本経済への不安が高まったことが背景にある。日本企業が海外の資産を売って円資金の確保に走ると見た外国人投資家らが円を買う投機的な動きが強まっているものとみられる。
東日本大震災で、日本は未曽有の大打撃を受けた。福島第一原発の事故も予断を許さない。日本が不安視されているにもかかわらず、16日のニューヨーク外国為替市場では円が買われた。
きっかけは、欧州連合(EU)高官が「福島第一原発は制御不能に陥った」と発言したと伝えられたことだった。日本が危機的な状況に陥れば、日本の企業や機関投資家がいざという時のために使える手元資金を増やしておこうと、海外の資産やドル資金を円に換えて国内に戻そうとする、との思惑が外国人投資家の間に高まった。
海外市場で巨額の資金を運用している日本の生損保などの機関投資家も、いったん投資資金を日本に引き揚げ、震災対応での支出などに備えるとの見方も出ている。
こうした思惑などを背景に、円相場に大量の投機資金が流れ込んでいるものとみられる。市場関係者によると、円高が進めば東京株式市場の株価も下がるとみた外国人投資家が、円買いと株売りを同時に進める動きも出ている、との声もある。
円高と株安の連鎖を食い止めるには、その最大の要因となっている原発事故を解決し、今後の不安を打ち消すことが何より大事だ。
円高は、輸出企業の収益に悪影響を与える。通常ではみられない急速な値動きは、金融市場の不安を増幅させ、円高や株安に拍車をかける恐れもある。投資家の不安が極度に高まり、パニック的な状況に陥らないようにしなければならない。円相場で投機的な動きが活発になっているとすれば、約半年ぶりとなる政府・日本銀行の為替介入も一定の効果が期待できるかもしれない。
ただ、かつてない危機に直面している日本で円高が進むことはマイナスの面だけではない。復興に向け、石油や食料などの輸入が欠かせない日本にとっては、輸入品を安く買うことができる効果をもたらす側面もある。市場関係者の間では「円高よりも、むしろ『日本売り』が殺到し、株とともに円が急落するのが最悪のシナリオだ」(大手銀行関係者)との見方も強い。(大日向寛文)