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「震災、他人事だと…」震度6で村民9割避難 長野・栄

2011年3月13日0時49分

写真拡大屋根が落ちてつぶれた栄村青倉地区の公民館=長野県栄村、上田悠撮影

写真拡大道路に向かって大きく傾いた家屋。電線に引っかかってかろうじて倒壊を防いでいる=長野県栄村

 震度6強の激しい揺れに襲われた長野県栄村の上空には青空が広がっていた。土砂崩れで宙に浮いた鉄路、徐々にすき間が広がる橋……。12日未明の地震で、人口約2300人の約9割が避難を余儀なくされた新潟県境の村を歩いた。

 午前9時の横倉地区で、傾いた民家の様子を見ていた勝家直樹さん(51)に、発生時の様子を聞いた。

 2階で寝ていると、突き上げるような激しい揺れに襲われた。起きあがろうとしても、それすらできない。同時に、タンスや本棚、テレビやパソコン、部屋にあるもの全てが倒れた。「とにかく外に」。身の回りの物を持ち出す余裕などなく、玄関に向かった。しかし、揺れでゆがんでしまったのか、扉は開かない。1階店舗部分のシャッターをこじ開けると、妻と足の不自由な両親を車に乗せて、避難させた。

 前日に起きた東北地方の大地震。「他人事だと思っていましたが。家の形は残ったが、中はめちゃくちゃ。もう住むのは無理でしょうね」。肩を落とした。

 同地区の区長を務める渡辺利正さん(66)も表情を曇らせる。「今晩どこで寝られるのか、お年寄りはちゃんと薬を飲めるか、谷が崩れて沢があふれて濁流が来ないか……、心配なことばかりだよ」

 隣の青倉地区では、家が鳴いていた。余震に合わせて、家々がミシミシという音を上げ続けた。木造の公民館は屋根に押しつぶされるように、2階部分がぺしゃんこになっていた。大きくゆがんだ家、傾いて道路にせり出して来た家が並んでいた。

 村内に設置された避難所は七つ。自宅では危険と、徒歩で村役場に避難する男性に同行した。豪雪地帯だけに、道路脇には約2メートルの雪の壁。その中を走る道にはひびが入り、まるでこぶができたように盛り上がった箇所もある。真っすぐに歩くのさえ難しい。地面が揺れると、何度も足をとられた。

 瓶が破損し、アルコール臭が充満した商店があった。栄大橋は橋げたが外れて、約30センチのすき間ができていた。余震があると、それが広がっていった。

 避難所となる村役場だが、玄関前は大きく陥没。机や棚が倒れ、資料が散乱した部屋で職員が情報収集や対策に走り回る。その中で、不安な表情を浮かべた村民たち約400人が身を寄せ合い、被害状況を流し続けるテレビを食い入るように見詰めていた。

 「限界集落」とも言われ、高齢化が進む村。子どもたちもいるが、やはりお年寄りの姿が目立つ。

 隣近所で一緒に避難してきた宮川かのいさん(78)と石沢ミツエさん(77)は、夕方配られたおいなりさんをほおばった。「家は壁も抜け落ちて、いる場所がないけど、避難所で眠ったことがないので不安」とかのいさん。ミツエさんは「揺れても、みんなでいた方が少し安心かも」。

 日赤長野支部や企業から毛布や食料などの救援物資が届く。各避難所に配布するため、女性たちが準備をすすめる。やむことのない余震の中、不安な夜が近づいてきた。(野津彩子)

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