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きょういく特報部

小学英語 教師の不安

2011年2月7日

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写真:「これはいくつ?」「うーん、eight!」。数字あてクイズやゲームを採り入れた英語授業では、子どもたちの元気な声が響き渡っていた=大阪府千早赤阪村の村立赤阪小、阪本写す拡大「これはいくつ?」「うーん、eight!」。数字あてクイズやゲームを採り入れた英語授業では、子どもたちの元気な声が響き渡っていた=大阪府千早赤阪村の村立赤阪小、阪本写す

写真:大阪樟蔭女子大の学生らが作成した小学校での英語授業用の教材。教師が読み上げるアルファベットを線で順番につないでいくと、猿のイラスト(下図)が出来上がる拡大大阪樟蔭女子大の学生らが作成した小学校での英語授業用の教材。教師が読み上げるアルファベットを線で順番につないでいくと、猿のイラスト(下図)が出来上がる

 新年度から小学校5、6年生で必修化される「外国語活動」。多くの小学校が前倒しで英語を授業に採り入れているが、英語に自信が持てず、必修化に不安を抱える教師も少なくない。そんな教師を支援しようと、一部の大学では、独自に開発した教材を学校現場に提供する動きも出始めた。必修化を控えた英語教育の現状と課題を探った。(阪本輝昭)

■外国語指導助手 足りない

 南北朝時代の武将・楠木正成ゆかりの地として知られる大阪府南部の千早赤阪村。1月18日、その北部に位置する村立赤阪小(全校児童136人)に、童謡「きらきら星」を英語で歌う元気な声が響いた。「Twinkle twinkle little star……」(きらきら光るお空の星よ……)

 歌うのは1年生の児童23人。担任の大門賀子(だいもん・のりこ)教諭(46)と、ガーナ出身の外国語指導助手(ALT)ノア・エンクルマ・アダサさん(53)が手拍子をしながらリズムをとった。

 歌が終わると、大門教諭は黒板に書かれた「1月18日」の日付を指さし、「Thursday?」(木曜日?)とちょっと首をかしげてみせた。児童らは一瞬考えた後、大声で「No! Tuesday!」(いえ、火曜日です)と一斉に返事をした。

 児童同士がペアを組んでジェスチャーを見せ合い、それが何の動きなのかを英語で言い当てるゲームでは、教室中が白熱。「Jump」(跳ぶ)「Walk」(歩く)などの声が飛び交い、楽しそうな笑い声が上がった。

 千早赤阪村では、2005年度から幼稚園・小学校・中学校が一体となった英語教育の取り組みが本格化。赤阪小でも、学校の裁量に委ねられた時間などを活用した取り組みが行われてきた。

 小学校での英語教育そのものは、この10年ほどで先行導入が進み、07年度の文部科学省の調査では全国の公立小の97.1%が何らかの英語教育を実施していた。ただ、その実施コマ数は6年生で月平均1コマ強にとどまっている。

 英語教育が必修化されると、5、6年生では週1コマ程度の授業回数になる。07年度調査では、6年生の英語教育の65.4%でALTが授業に参加していたが、必修化後はALTの人繰りが追いつかず、担任だけで授業に臨む場面が増えそうだ。

 全国都道府県教育長協議会が08年に実施した調査でも、8割以上の公立小教員が「単独での授業」に不安を抱いているという結果が示された。

 大門教諭のもとにも、不安を抱えた小学教諭の声が届く。「間違ってもいいから、臆せずに声を出していくのが大切。教師から児童への一方通行の授業では意味がない。先生も子どもたちと一緒に学んでいくという姿勢でいいと思う」と大門教諭はいう。

■教科書なし 指導冊子のみ

 英語教育の必修化が現場の教員らに不安を与えているもう一つの要因が、教科とは位置づけられていないため、教科書がないことだ。文科省は、ゲームや会話例などを解説した英語指導冊子「英語ノート」を各校に配布しているが、指導の経験が乏しい教員にとってはこれがほぼ唯一の「頼みの綱」になっている。

 こうした状況を踏まえ、小学校の英語教育について学ぶ大阪樟蔭女子大のゼミでは、昨年から学生9人が、研究活動を兼ねて小学校用の英語教材づくりに取り組んでいる。

 たとえば、アルファベットが無造作に配置されたように見える紙を使った教材では、「A」「X」「C」などと教員が読み上げる順番通りに文字を線でつないでいくと、動物やケーキといった絵が浮かび上がるという趣向。ゲーム感覚で聞き取り能力を高める狙いがある。「B」と「V」など響きが似た文字をあえて近くに配置するなどの「ひっかけ」も盛り込んだ。

 こうした教材は、「サクラクレパス」(本社・大阪市)の協力を得て、同社の公式サイト(http://www.craypas.com/)から無料でダウンロードできるようになっている。

 ゼミを指導するのは、元文部科学省教科調査官の菅正隆教授。文科省時代、小学校での英語活動の必修化に携わった菅教授は「楽しみながらコミュニケーション能力を磨くことが一番の狙い。それに沿った教材を広く提供するのは大学の役目だと思う」と話す。

 大学生にとっても教材づくりは新鮮な経験のようだ。幼稚園か小学校の教諭をめざす3年の山口恵美さん(21)は「英語教育といっても力む必要はないんだと思った。一人でも多くの小学生に使ってもらえたらうれしい」と話す。

■米誌で「世界のカリスマ教師」田尻悟郎・関西大教授

 小学校英語で注意すべき点は何か。26年間、公立中で英語を教え、米ニュース誌で「世界のカリスマ教師」に選ばれたこともある田尻悟郎・関西大教授に聞いた。

    ◇

 小学校段階での授業は、具体的な成果を期待するのではなく、英語を学ぶ面白さや奥深さを子どもたちに知ってもらうというスタンスでいいと思う。問題は、中学校以降にスムーズにつなげられるかどうかだ。

 英語授業の現場を訪ねてみると、小学校では先生が工夫して伸び伸びと独創的な授業をつくっているところが目立つ。一方、中学からは入試などをにらんで教科書の内容を消化することに追われ、教え方に工夫をこらす余裕が失われがちだ。小中の英語授業担当者どうしが、互いの役割分担を意識し、日常的に「何をどう教えていくか」について意見やアイデアを出し合っていく場が必要。そういった取り組みに、自治体は予算を充てていくべきだと思う。

 教員養成課程のある大学などの役割も大きい。小学校での英語教育のプロを育てていくためのコース新設なども積極的に進めていくべきだ。

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